感染症対策が特別なものではなくなった現在でも、「体温」は体調管理の基本指標のひとつです。発熱の有無を確認するだけでなく、日々のコンディション把握や健康管理の目安として体温を意識する人は少なくありません。
スマートウォッチの高機能化が進むなかで、「心拍数や血中酸素が測れるなら、体温も測れるのでは?」と考える方も増えています。実際、Apple Watchをはじめとする最新モデルには“手首の温度”を記録する機能が搭載されるようになりました。
しかし現状のスマートウォッチで測定できるのは、いわゆる“体温”そのものではなく体表温度(皮膚温)です。ではなぜ、手首では正確な体温(深部体温)を測ることが難しいのでしょうか。本記事では、その理由を医学的な観点からわかりやすく解説します。
著名アナリストの分析
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Apple canceled body temperature measurement for Apple Watch 7 because the algorithm failed to qualify before entering EVT stage last year. I believe Apple Watch 8 in 2H22 could take body temperature if the algorithm can meet Apple’s high requirements before mass production.— 郭明錤 (Ming-Chi Kuo) (@mingchikuo) May 1, 2022
著名アナリストのミンチー・クオ氏によると、Apple Watch(Series 7時点)に体温測定機能が搭載されなかった背景には「アルゴリズムの問題」があったとされています。
続く投稿では、手首の皮膚から体温を推定することの難しさにも言及しています。
ではなぜ、手首では正確な体温測定が難しいのでしょうか。
体温はどこで測っても同じではない
この点を理解するうえで参考になるのが、テルモ体温研究所の解説です。
テルモによると、体温は測る部位によって異なります。
体の内部の温度をコア温(中心温)、体表近くの温度をシェル温(被殻温)といいます。
・コア温:脳や心臓など重要な臓器を守るため高く安定(通常約37℃前後)
・シェル温:体表から熱が放散されるため低くなりやすい(皮膚は約32〜33℃前後)
つまり、体の内部は高く安定している一方で、体表は外気の影響を受けやすく変動しやすいという構造なのです。
そもそも手首は体温を測るのに適していない

スマートウォッチを装着する「手首」は、典型的なシェル温の部位です。
人間の体は部位によって温度が異なり、手足など末梢部分の表面温度は季節や環境の影響を受けやすく安定しません。
・周囲の気温
・汗の影響
・血流の変化
・装着の密着度
こうした外的要因で測定値は大きく変動します。
テルモ体温研究所のデータでも、鼓膜温(耳)と腋窩温(わき)は全体として相関するものの、個人単位では1℃以上の差が出ることが示されています。
つまり、体表に近い部位で深部体温を正確に推定するのは非常に難しいのです。
スマートウォッチで計測できるのは体表温度

スマートウォッチで測定されるのは体表温度(皮膚温)です。これは体内温度(深部体温)そのものではありません。
Apple Watch Series 8およびApple Watch Ultra以降のモデルでは、手首の皮膚温の「変化」を記録できます。
ただし重要なのは、
・リアルタイムで体温を表示するものではない
・絶対値の体温を示す機能ではない
・主に睡眠中の変化を記録する設計
という点です。
iPhoneの「ヘルスケア」アプリで「体の測定値」→「手首の温度」を選択すると確認できますが、あくまで変動の傾向を見るための機能です。
特に女性の生理周期の予測や排卵推定などに活用されています。
一定期間継続して測定することで、個人のパターンを学習し、変化を捉える仕組みです。
正確な体温を測りやすいのは耳、口の中、わき
深部体温とは、私たちが一般的に「体温」と呼んでいるものです。
体内の代謝活動や体温調節を反映する重要な指標であり、健康状態のチェックに用いられます。
日常的に使用される測定部位は、
・わき(腋窩温)
・口の中(舌下温)
・耳(鼓膜温)
・直腸
これらはコア温の変動を比較的反映しやすい場所です。
体温計メーカーであるオムロンやテルモも「手首測定」を製品化していません。これは、医学的に適していないことを示しています。
体表温度と深部体温の違い
| 特徴 | 体表温度 | 深部体温 |
|---|---|---|
| 測定場所 | 皮膚表面(手首、額など) | 体内(鼓膜、直腸など) |
| 外部環境の影響 | 大きく受ける | 受けにくい |
| 安定性 | 変動しやすい | 比較的安定 |
| 用途 | 傾向把握・スクリーニング | 正確な体温管理 |
Apple Watchに体温計アプリはあるが測定はできない

App Storeで「体温計」と検索すると「体温計Watch+ for Watch」というアプリが表示されます。
しかしこれは、他の体温計で測定した数値を入力・記録するためのアプリです。
Apple Watch自体に体温測定機構はありません。
赤外線体温計には医療機器ではないものも多い
額や手首にかざす非接触式体温計も、基本的には皮膚表面の温度を測定しています。
格安製品には「医療用ではありません」「参考値です」と明記されているものもあります。
一方でタニタやオムロン製品には医療機器認証番号が記載されています。
オムロンも公式に「高い値が出た場合はわきで再測定を推奨」と説明しています。
体表温度はあくまでスクリーニング用途と理解しましょう。
「検温可能なイヤホン」は主流になる可能性アリ

鼓膜温はコア温に近い値を示すとされています。
そのため、イヤホン型ウェアラブルは将来的に有望な領域です。
Appleの特許にも、生体センサーを内蔵したイヤホン構想が存在します。
AIによる予測技術や高精度赤外線センサーが進化すれば、より正確な推定が可能になる日が来るかもしれません。
まとめ:スマートウォッチは体温計ではない
・体温は測る部位によって異なる
・手首は外部環境の影響を強く受ける
・深部体温は耳・口・わきで測定する
・スマートウォッチは体表温度の変化を記録するデバイス
正確な体温を知りたい場合は、医療機器認証のある体温計を使用しましょう。
一方で、スマートウォッチの体表温度機能は、自分の平常パターンを知る健康管理ツールとして活用できます。
体温は「どこで測っても同じ」ではありません。自分の平熱を同じ部位で何度か測って把握することが大切です。
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