Apple Watch のオペレーティングシステムがwatchOS 9にアップグレードされたことによって、ランナーたちはパワー、ピッチ、歩幅、接地時間、上下動など、新しい指標を数多く手に入れました。
そのwatchOS 9は少し前のバージョンのApple Watchでも使えるものです (Series 4以降もしくはSE。ペアリングするiPhoneにも一部条件あり)。
これらの指標を活用することによって、ランナーたちはペースや距離だけではなく、自分がいかに効率よく走れているか(あるいはエネルギーを浪費しているか)を、ランニング中のApple Watchの画面でも知ることができます。
つまりApple Watchがランナーひとりひとりにランニングフォームを改善するためのフィードバックを与えてくれるのです。
watchOS9以前のApple Watchがランナーに提供してきたのはGPS機能に加えてペースや心拍数といった基本的なデータに限られていましたが、現在はかなり専門的なコーチング機能も備えていると言えるでしょう。
以下、watchOS9によってApple Watchに追加されたワークアウトの機能のうちランニングに関連するものを紹介します。
ランニング・エコノミーを様々な角度で解析する指標群
•パワー(Power):ワット数(w)で表されます。一歩前へ進むために生み出されるパワーのことです。速く走るとパワーは大きくなります。当然ですが疲れます。逆に言いますと、同じペースや心拍数で走るならば、パワーの数値が少なければ少ないほど、効率的なランニングフォームだということです。
•ピッチ(Cadence):1分ごとの歩数(SPM – Steps per Minute)のことです。長距離ランナーにとって最も効率が良い数値は180 SPMだと言われていますが、個人ごとの身長、体重、そしてランニング能力など様々な要素によって異なります。そこで、自分にとって最適のピッチ数をスタートからゴールまで維持できるように練習するわけです。
•歩幅(Stride Length):人は走るときに両足が地面から離れる瞬間があります。その間に前へ移動するので、その移動距離が長ければ長いほど速く走れるわけですが、上のピッチ数が少なくなってしまえばスピードは相殺されてしまいます。極端な話、ジャンプすれば歩幅は広がりますが、それでは走り続けることはできません。フォームが乱れると歩幅も変化します。いかにフォームを一定に保てるかが重要です。
•接地時間(Ground Contact Time):足が地面に着いている時間のことで、ミリ秒(ms)で表されます。一般的なランナーの数値は200ms~300msだと言われていますが、競技ランナーになるほど小さくなります。走るとは足を空中に引き上げてから地面に下ろすことを繰り返す動作です。その際に接地時間が短くなればなるほど、速く走ることができるということです。
•上下動(Vertical Oscillation):走るときに体が垂直に上下する距離のことで、センチメートル(cm)で表されます。一般的なランナーの数値は大体6㎝から13㎝の間だと言われています。走るとは水平方向に移動することなので、縦に動く動作はなるべく小さくしなくてはなりません。従って、この数値が小さければ小さいほど良いランニングフォームということになります。
仮に同じコースを毎日走っているとしましょう。今まではタイムと心拍数、そして消費カロリーくらいしか把握できませんでした。それらの数値はスピードとスタミナの成長度を測るために有用なデータですが、どちらかと言えば結果に類するものです。
新たに追加された指標群によってランニングフォームの効率性を測り、より良い結果を出すためにプロセスを改善する方法を探すことができるのです。
ゆっくりとしたジョグと中距離インターバル走で比較すると
ところで、同じランナーでも速く走るときとゆっくり走るときでは、こうした指標の数値は大きく異なります。
やや極端な例になりますが、私が行った2種類のランニングとそのデータをご参考までに紹介します。
ひとつは5キロ走のペーサーを務めたときのもの。時速10キロ、つまり30分ちょうどで5キロを走り終えるように、最初から最後までApple Watchの画面とにらめっこしながら一定のペースを守って走りました。
もうひとつは287メートルを1分以内で走り、2分間の休息を挟んで5ラウンド繰り返すという中距離インターバル走です。なぜそんな半端な距離かと言いますと、このインターバル走はNBAマイアミ・ヒートがキャンプ前に行っているテストだと紹介した記事を読んだからです。バスケットボールの長さは28.7メートル。それを10回行ったり来たりするだけの距離ということです。
iPhone上「フィットネス」アプリのスクリーンショット
左:5キロペース走、右:中距離インターバル走
*数値は平均値。カッコ内()は最小値及び最大値。
インターバル走では休息で歩いていた時間のデータも含まれますので、それぞれの指標によって最小値か最大値を見てください。短い距離を速く走るときは、心拍数は上がり、パワー数は大きく、ピッチは増え、歩幅は長く、接地時間が短く、そして上下動が小さくなっていることが分かるでしょう。
ところで、watchOS9ではカスタム・ワークアウトの機能も追加されました。インターバル・トレーニングの時間や距離、そしてラウンド数を自由に設定することが可能になったのです。今回の変則的なインターバル走も簡単に設定できました。
Apple Watch「カスタム・ワークアウト」の設定画面
すべてを終了した後のデータをiPhone上「フィットネス」アプリで確認すると、ラウンドごとの指標を見ることができます。
iPhone上「フィットネス」アプリのスクリーンショット
左:サマリー、右:インターバル走ラウンド毎の詳細
同じ距離を同じタイムで繰り返すわけですので、理想は最初から最後までデータが一直線になることです。見ての通り、そうはいきませんでした。
1ラウンド目は様子を見て、2ラウンド目はまだ元気で、3,4ラウンド目は疲れてきて、最終5ラウンドは根性を出して頑張った。インターバル形式のトレーニングではありがちなパターンですが、そうしたことも数字で確認することができます。
このように現在のApple Watchはかなり熱心なランナーのパートナーにもなりうるスマートウォッチであると言えるでしょう。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani