アメリカ合衆国の軍隊組織には大きく分けて陸軍、海軍、空軍、海兵隊、宇宙軍、そして沿岸警備隊の6つがあります。それぞれの組織は国防総省から定められたガイドラインに沿って、傘下軍人たちに独自のフィットネステストを課しています。
その目的は軍人たちが任務を遂行するために求められる体力と健康状態を維持することとされ、有酸素運動能力、筋持久力、最大筋力の3つのフィットネス分野に加え、BMIや腰囲などの身体組成データを査定することが義務付けられています。
アメリカの最も新しい軍隊組織である空軍は、これまで年に1回のフィットネステストを行ってきましたが、これを廃止し、新たにフィットネストラッカーを利用した査定システムの導入を検討しています。
アメリカ公共ラジオ放送(NPR)が8月2日付のオンライン記事(*1)で報じています。
*1. The Space Force is scrapping the annual fitness test in favor of wearable trackers
https://www.npr.org/sections/health-shots/2022/08/02/1113936229/space-force-annual-fitness-test-wearable-trackers
フィットネスだけに限らず、心身の健康を促進するプログラム
空軍がこれまで行ってきたフィットネステストの種目は2キロ走、1分間の腕立て伏せ、そして1分間のシットアップ、というシンプルなもので、性別と年代によって評価基準が定められています。最低限に求められるレベルはけっして高いものではありません。興味のある人は下のウェブサイト(*2)に詳細が載っています。
*2. 2022 Air Force Fitness Test Standards & Score Charts.
https://officerassignments.com/air-force-pt-test/
それでも年に1回行われるテストにパスしなければ職と身分を失うわけですので、隊員たちにはそれなりのプレッシャーがかかるようです。昨年まではBMIや腰囲のデータも測定されていたため(今年から廃止)、かえって摂食障害などの健康上の問題を引き起こすことも指摘されていました。
現在検討されている計画では、空軍隊員たちは年1回のテストの代わりに、スマートリングか他のウェアラブル製品を与えられ、年間を通した身体活動と健康関連データを把握できるようになります。それだけではなく、メンタルヘルス、食生活、そして睡眠といった分野でもアドバイスを受けられるようになるということです。
NPRの記事によると、この計画が導入されるのは早くても2023年ということで、空軍隊員たちは今年はもう一度だけフィットネステストを受けなくてはいけません。気になるのは採用されるフィットネストラッカーの機種ですが、Garminの腕時計とOura Ringが現在試行中とのことです。
年に1回のテストに向けたある期間だけ生活を正すより、年間を通して健康を維持する方が、はるかに望ましいことは言うまでもありません。身体的活動、心拍数、睡眠パターンなどを24時間365日把握できるフィットネストラッカーは、まさにうってつけのテクノロジーなのでしょう。
もっとも、自身のプライバシーに関わる情報を所属組織に一括管理されることを、空軍隊員たちがどう感じているかについては、想像するしかありません。年に1回のテストを受ける方がずっと楽だと思う人もなかにはいるかもしれません。
個人的には、こうしたフィットネストラッカーによる監視を航空機パイロットや長距離バスのドライバーのような公共交通機関の移送に従事している人たちに課してほしいなあと思います。あの人たちに睡眠不足とか体調不調とか二日酔いとかでお仕事をされると、重大な危険が生じるかもしれませんので。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookはhttps://www.facebook.com/WriterKakutani