スマートウォッチやフィットネストラッカーなどのウェアラブル機器が認知症の早期発見に役立つ日が来るかもしれない。
そんな研究(*1)をブルームバーグ公衆衛生大学院(ジョンズ・ホプキンズ大学)の研究者らが医学雑誌『アルツハイマー病ジャーナル』に発表しました。
*1. Daily Physical Activity Patterns as a Window on Cognitive Diagnosis in the Baltimore Longitudinal Study of Aging (BLSA)
https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad215544
この研究ではApple WatchやFitbitなどで使われている動作センサーと似た技術「ActiGraph」からのデータを解析しました。被験者は約600人の高齢者です。その結果、軽度の認知症またはアルツハイマー病の症状がある被験者グループと認知が正常な被験者グループとの間で、活動パターンに顕著な違いを発見しました。トータルの活動量ではなく、活動する時間帯や連続性が異なるそうなのです。
認知症患者は日中の活動が少なく、午後は断続的な休みが多い
この研究の結論は以下のものでした。
「軽度の認知症またはアルツハイマー病の症状があるグループは午前6時から正午までの時間帯に行う活動量が正常グループに比べて著しく少ない。さらに正午から午後6時までの時間帯には活動が断続的になる割合が、軽度の認知症、またはアルツハイマー病の症状があるグループは正常グループより3.4%高い」
この結論は身体活動パターンと認知症の間に何かしらの関係があることは示唆していますが、その因果関係を突き止めるところまでは行っていません。ある身体活動パターンのために認知症になるのか、あるいは認知症がその身体活動パターンをもたらすのか、それについては今後の研究課題になるでしょう。
より大規模で連続した身体活動データを自動的に収集
この発見がもつ医学的な意味を評価することは筆者の能力を越えています。ただひとつ感じることは、ウェアラブル機器が人類に幸福をもたらす将来的な可能性への期待がさらに大きくなるだろうということです。
世界中でユーザー数を増やしているウェアラブル機器は医療従事者や研究者たちに貴重な機会を作り上げつつあります。病院や研究室といった専門施設に限定されることなく、より多くの身体活動に関連したデータ(運動、睡眠、心拍数、血中酸素レベルなど)をより多くの人から集めることができるからです。しかもそのデータはインターネットを介してリアルタイムで集積され、何百万人ものデータを解析するデータベースの作成も可能です。
これからもウェアラブル機器のテクノロジーと医学の連携はますます強固になっていくのではないでしょうか。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani