アルコールには百害あって一利もないか
のっけから個人的な話で申し訳ありませんが、筆者である私はお酒が大好きな人間です。それほど多くの量を飲むわけではありませんが、ほぼ毎日のように缶ビールを数本と、ワインやウイスキー、焼酎の水割りなどを数杯は口にします。
もちろん、「それほど多くの量ではない」というのはあくまでも私の主観であって、医学的にはこれでも十分に「飲み過ぎ」の範疇に入ります。厚生労働省では、「節度ある適度な飲酒」量を「ビール中ビン(500ml)1本」程度だとしています(*1)。
つまり、私の普段の飲酒量は厚生労働省が定める「適量」の2~3倍程度にはなっているということです。スポーツを愛好し、またその指導を職業とする立場からすると、このアルコール摂取はけっして褒められたことではありません。それどころか、客観的には百害あって一利なしだと考えています。
過度のアルコール摂取は体調を崩しますし、体重増にも繋がります。飲みすぎた翌朝は走ることが苦しくなりますし、無理に走っても身体に悪いだけです。それともう1つ、アルコール摂取は睡眠の質を低下させることが数多くの研究で証明されています(*2)。
お酒を飲むと寝つきがよくなると感じる人は多いですが、実はその睡眠中も肝臓はアルコールを処理するために働き続けています。せっかくの睡眠中も内臓が休めないうえ、眠りが浅くなるのだそうです。睡眠の質が悪くなれば、当然のことですが、体力の回復に悪影響が出てきます。
*1. 厚生労働省 e-ヘルスネット 飲酒のガイドライン
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html
*2. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23347102/
Fitbitの「睡眠スコア」や他の健康指標は断酒するとどうなる?
と、理屈では分かっているのですが、なかなかお酒を止めるか控えることができない理由の1つとして、睡眠の質というものが客観的な数字に表れにくいということがあるのではないでしょうか。
ひどい二日酔いになった日は論外ですが、穏やかな(と自分では思っている)飲酒量が身体に及ぼす影響を切実に実感することは、少なくとも私にはあまりありません。
そこで、様々な健康指標データを提供してくれるFitbit Charge 5の機能と自分の体を使って、アルコール摂取が及ぼす身体的な影響を客観的なデータを使って検証してみました。
【あわせて読みたい】Fitbit Charge5の機能全般の使用レビューはこちら。バンド型モデルではNO.1の使い心地と多機能さ!
いつも通りに毎晩お酒を飲んだ1週間の睡眠時間と、断酒した1週間のそれを比べてみたのです。同様に「睡眠スコア」、「エナジースコア」、「安静時心拍数」の数値がどのように変化するかも観察しました。それぞれの指標の詳しい意味を知りたい方は下記のFitbitヘルプページを参照してください。
Fitbitヘルプページの説明:
睡眠スコア: https://help.fitbit.com/articles/ja/Help_article/2439.htm
エナジースコア: https://help.fitbit.com/articles/ja/Help_article/2437.htm?Highlight=%E3%82%A8%E3%83%8A%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%82%A2
安静時心拍数: https://help.fitbit.com/articles/ja/Help_article/1565.htm?Highlight=%E5%AE%89%E9%9D%99%E6%99%82%E5%BF%83%E6%8B%8D%E6%95%B0
ここから検証を開始!
断酒期間に入る前の直近データ
睡眠スコア | 睡眠時間 | エナジースコア | 安静時心拍数 | |
11月28日(日) | 70 | 7:00 | 52 | 68 |
11月29日(月) | 82 | 7:36 | 79 | 68 |
11月30日(火) | 80 | 6:59 | 44 | 66 |
12月1日(水) | 77 | 7:50 | 56 | 66 |
12月2日(木) | 75 | 6:06 | 83 | 66 |
12月3日(金) | 67 | 7:26 | 39 | 64 |
12月4日(土) | 83 | 9:18 | 45 | 62 |
1週間の平均 | 76 | 7:28 | 57 | 66 |
断酒実験期間に入る直前、つまり普段通り毎日お酒を飲んでいた1週間の私の健康指標データは上の通りです。
1週間の前半はビール2缶とウイスキー水割りを3~5杯ほど飲んでいましたが、最後の2日間はビールのみでした。
ただ、木曜夜に手持ちのウイスキーが底をつき、実験の妨げにならないよう、新しく買い直さなかったためです。金、土の数値がやや良くなっているのはそのせいかもしれません。
平均して、私の睡眠スコアは「やや低い」、エナジースコアは「良い」、安静時心拍数は一般(60-100)のやや低め、がFitbitの評価でした。
その他に、VO2Maxの推定値(Fitbitでは「有酸素運動レベル」と呼ぶ)は50-54で、これは「すばらしい」と表示されていました。50歳以上の男性にしては、ですけど。
【あわせて読みたい】VO2Max(最大酸素摂取量)は心肺能力を測定する有力な指標!スマートウォッチでも計測可能
また、Fitbitとは別に、体重計で計測した体重は61.4kg、体脂肪率8.0%でした。
職業柄、私はほぼ毎日のように1~2時間ほどの運動をします。睡眠の質はともかくとして、睡眠時間も運動時間も現役バリバリの社会人の方たちと比べるとかなり長い方だと思います。申し訳ないことに暇なのです。
この日常生活のパターンを極力変えずに(同じくらい運動して、同じくらい食べて)、ただアルコール摂取量だけをゼロにすると、上の健康指標データはどう変化するか? を調べてみたものが下の実験結果です。
断酒期間(1週間)終了後のデータ
睡眠スコア | 睡眠時間 | エナジースコア | 安静時心拍数 | |
12月5日(日) | 81 | 7:20 | 64 | 59 |
12月6日(月) | 77 | 6:06 | 71 | 57 |
12月7日(火) | 62 | 5:59 | 74 | 57 |
12月8日(水) | 77 | 7:04 | 45 | 57 |
12月9日(木) | 69 | 6:07 | 69 | 58 |
12月10日(金) | 75 | 8:01 | 84 | 58 |
12月11日(土) | 86 | 8:19 | 86 | 59 |
平均 | 75 | 6:59 | 70 | 58 |
1週間、まったくお酒を口にしないという苦行を終えた直後のデータは上の通りです。
ご覧の通り、断酒前と後で、睡眠時間(7:28 -> 6:59)と睡眠スコアの数値(76 -> 75)には、ほとんど変化がありませんでした。
むしろ断酒後の方が、僅かに数値が下がっています。アルコール摂取が睡眠の質を低下させるという説は今回の検証では否定されました。
お酒を飲むとよく眠れるというわけではありませんが、少なくともよく眠れなくなるわけでもありません。心置きなくお酒を飲んでもいいようです。よかった、よかった。
と、この記事を終えることができたら何よりなのですが、残念なことに(?)、アルコール摂取を止めたことによって、身体に良い影響があったと思われる、いくつかの発見がありました。
断酒だけで心肺能力が向上した!?
まず、身体がエクササイズをする準備がどれだけできているか、を総合的に評価するエナジースコア(100点満点)の数値に変化がありました。断酒前の週間平均スコアが57(「良い」)だったのが、断酒期間の週間平均スコアが70(「とても良い」)と、明らかに向上したのです。特に最後の2日間は私にはかつてないほどの高スコアでした。
私がもっと驚いたのは安静時心拍数の劇的な変化です。断酒する前と後で、平均して10毎分拍も低くなっていました。それに関連していると思うのですが、VO2Maxの推定値も”50-54” だったのが、断酒しただけで”52-56” に向上していました。
どちらも僅かな変化に見えるかもしれませんが、安静時心拍数もVO2Maxも普通は有酸素トレーニングを長く続けた結果として向上するものです。
ところが、繰り返しになりますが、この実験は同じだけ食べて、同じだけ運動して、アルコール摂取のみを止めました。ただそれだけで、そしてたった1週間で、心肺能力が向上することが分かってしまったのです。認めるのもつらい真実ではありますが、日常的にお酒を飲むということは、トレーニング効果を台無しにしている、ことのようです。
断酒をしたら、やっぱり痩せた!
ダイエットが気になるけど、お酒が好きな人へ、もう1つの「不都合な真実」をお伝えしておきましょう。断酒期間中、私の体重はほぼ右肩下がりで落ち続け、たった1週間で1キロ以上も軽くなりました。アルコールに含まれるカロリーが日常からなくなったわけですので、これも当然と言えば当然の結果なのでしょう。
お酒を飲まないということは、主観的には大変につらいものでしたが、それでもお腹が空いたわけではなく、普段より運動を頑張ったわけでもありません。痩せたいと願うのであれば、やはりお酒は飲まないに越したことはないようです。
私? もちろん、この実験が終わった翌日からお酒を飲み始めましたとも。
執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookはhttps://www.facebook.com/WriterKakutani
あわせて読みたい
Fitbit Charge5使用レビュー。バンド型モデルではNO.1の使い心地と多機能さ!
※本記事のリンクから商品を購入すると、売上の一部が販売プラットフォームより当サイトに還元されることがあります。掲載されている情報は執筆時点の情報になります。