ここ数年、アメリカで人気が急上昇しているスポーツに「Pickleball(ピックルボール)」と呼ばれるものがあります。
テニスの半分ほどのスペースで、空気穴を開けてスピードを落としたボールを、板状のラケットで打ち合うものです。
テニスに比べると走り回る距離が少なく、また試合のペースも遅いため、ときには「高齢者のためのテニス」と呼ばれることもありますが、最近では学校の体育授業に使われるなど、全世代に広がりつつあります。
このピックルボール愛好者とテニス愛好者からApple Watchを介して健康関連データを取得し、その効果を比較した研究レポート(*1)が発表されました。
*1. Serving up Fun and Fitness: Pickleball in the Apple Heart and Movement Study.
https://appleheartandmovementstudy.bwh.harvard.edu/the-rise-of-pickleball/
Appleとハーバード医学大学がコラボした大規模調査
この研究を行った『Apple Heart & Movement Study』はハーバード医学大学系列の『Brigham and Women’s Hospital』が母体となり、アップル社がスポンサーになっている機関です。
広くApple Watchユーザーからデータ提供を募り、心臓医学に関する様々な研究に活用することを目的としています。
今回の研究では4,799人のピックルボール愛好家と7,780人のテニス愛好家がApple Watchに記録したデータが解析対象になりました。観察期間は32か月、合計の試合数は25万を超えたということです。
様々な角度から興味深い解析結果が報告されていますが、大体においてはこのふたつのスポーツは似たような健康効果があるようです。ただ、いくつかのポイントで相違点があることも明らかになりました。
●プレイ時間: ピックルボールの平均プレイ時間は90分、テニスのそれは81分でした。ピックルボールの方がコートに出かけた際にプレイする時間が長くなる傾向があります。
●心拍数: ピックルボールの平均心拍数は143 bpm、テニスのそれは152 bpmでした。テニスの方が強い運動強度でプレイする時間が長くなることを意味します。
2021年1月から2023年8月までの期間、テニスの参加者数は季節による変動が明らかでしたが(寒い時期に減り、暖かくなると増える)、ピックルボールのそれは右肩上がりの上昇を続け、ついに最終月ではテニスを上回りました。
ただし、これはピックルボール愛好家が季節に関係なくプレイするというより、ここ数年の人気急上昇を裏付けているのかもしれません。
Apple Watchに限らず、ウェアラブル機器を活用したスポーツや健康に関連した研究はますます増えてきているようです。今後もその流れは続くでしょう。
以前なら被験者たちを設備の整った研究室に集めなくてはできなかった種類の研究が、テクノロジーの恩恵で簡単にしかも大量に取得できるようになったデータのおかげで実現しています。
文中のピックルボールについて、もっと詳しく知りたいという方は、下の記事もご覧ください。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookはhttps://www.facebook.com/WriterKakutani