昨今何かと話題の人工知能(AI)の機械学習モデルを、Apple Watchなどのウェアラブル機器が収集する健康関連データに適用すると、使用者のメンタルヘルスの状況を把握することができる。
米国ニューヨーク州のマウント・サイナイ・アイカーン医科大学の研究者たちがそんな研究(*1)を発表しました。
医学ジャーナル『JAMIA Open』に2023年5月2日付で発表されたこの論文は、Apple Watchなどのウェアラブル機器とAIを活用することによって、メンタルヘルスに関連した聞き取り調査を介さず、リモートで心理状態を観察、そして評価する試みを報告しています。
ウェアラブルとAIの可能性
研究者たちはメンタルヘルスの問題に悩む人たちにとって、その困難を乗り越える回復能力(resilience)がストレスを軽減し、罹患率を下げるための重要な要因になることを指摘しています。そしてウェアラブル機器が24時間365日継続した形で収集するデータは身体的な分野に留まらず、個人の回復能力を評価することもできるということです。
研究は329人の被験者たち(平均年齢37.4歳、男性37.1%)を対象に行われました。彼らは観察期間中にApple Watch Series 4か5を着用し、心拍変動と安息時心拍数のデータが収集されました。そして聞き取り調査では彼らの回復能力、楽観性、そして感情についてのデータが収集されました。すると、身体的な指標は回復力や精神状態を予測できることが証明されたそうです。
精神的なストレスが高まった状態では心拍数が高くなることはよく知られていますし、私自身も経験済みです。もちろん、心拍数の変動には他にも様々な要因が絡みますので、ストレスと心拍数を単純に結びつけて考えることはできません。
それでも、AIの成長するアルゴリズムがその複雑な因果関係を正確に認識できるようになるのであれば、メンタルヘルスに悩む多くの人たちへの治療や予防の一助になり得るかもしれません。
ウェアラブル機器のデータをメンタルヘルスの評価に活用するための研究はまだ少なく、今後さらなる研究が行われるでしょう。
上の論文は結論で、「これらの発見はウェアラブル機器から受動的に収集されたデータを心理的特性を評価するためのさらなる研究に役立つ」と結んでいます。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookはhttps://www.facebook.com/WriterKakutani