アップル社はここ数年の間に人命救助に役立つ機能をApple WatchとiPhoneに追加してきました。
ユーザーが転倒したか、あるいは交通事故で衝突事故を起こしたことを検知し、そしてユーザーに救助を要請するかどうかを訊ねます。そして、一定時間内にユーザーからの反応がない場合は自動で緊急通報サービスに連絡するものです。
転倒検知はApple Watch Series 4から、衝突検知はApple Watch Series 8から、それぞれ搭載されました。
これらの機能が実際に機能し、人命救助に役立った事例は多くあります。以前、ロサンゼルスで起きた事件をここでも紹介しました。
関連記事: 意識を失った持ち主に代わってApple Watchが緊急通報。ロサンゼルス近郊で起きた人命救助の例
ただし、この検知機能は100%正確ではありません。重大な事故があったときに検知できなかったとすれば大問題ですが、その逆に何でもないときに転倒や衝突をしたとApple Watchが判断することがたまに起こってしまうのです。
私自身にもそんな経験があります。私は高校野球部のコーチをしているのですが、自チーム選手のファインプレーをベンチから跳び上がって喜んだときに「転倒しましたか?」のアラームがApple Watchに表示されました。
実際に筆者のApple Watchに表示された転倒検出の画面。複数回同じ経験がある
幸い、私はそれに気がつき、すぐに緊急通報を解除することができました。しかし、もし私がベンチの大騒ぎに紛れてアラームを見落とし、その後でまたじっと座っていたら、あるいは私が意識を失ったとApple Watchが判断し、救急車を呼んでしまっていたかもしれません。
それに似た事例がスノーモービルやスキーといったウィンタースポーツの現場で数多く発生し、ミネソタ州ではいくつかの自治体がこのApple WatchとiPhoneの緊急通報サービス機能を無効にするようにレジャー客へ呼び掛けを始めたというニュース(*1)が最近公開されました。
*1. Apple devices trigger false calls for winter rescues in Minnesota
記事によりますと、スキー場や雪山で誤作動による緊急救助要請が毎日何件も起こり、その度に救助隊が出動せざるを得ないケースが増えているのだそうです。
もちろん、何もないに越したことはないのですが、そのために救助車両や人員が手薄になって本当の事故に対応できなくなったとしたら、それこそ人命に関わります。
スノーモービルやスキーといったスポーツは突然の停止やターン、それにジャンプなどの激しい動きを伴います。それがApple WatchやiPhoneのセンサーには深刻な衝撃と判断されてしまうことがあるようです。
誤作動による救助要請をしてしまった人の多くが、アラーム音がスノーモービルのエンジン音に紛れたせいで、あるいは分厚いスキーウェアのポケットに時計や電話をしまい込んでいたせいで、まったく気がつかなかったと述べています。
緊急通報サービスはとても有意義な機能ですが、誤作動によってかえって救助活動の妨げにならないよう、ユーザーひとりひとりの注意が必要になるでしょう。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani