Apple Watch の最新モデルSeries 8が発表され、大きな話題を呼んでいます。
しかし、そのわずか数日前にはオペレーティングシステムであるwatchOS9もリリースされており、ある種のユーザーにとっては、こちらの方がより大きな意味を持ちました。
ある種のユーザーとは、ランナー、トライアスリート、スポーツ愛好家、あるいはマニアと呼ばれる人たちです。watchOS9では様々な機能が追加あるいは強化されていて、なかでもワークアウト機能は大幅に進歩したのです。
当然のことながら、Apple Watch Series 8はwatchOS9で動くわけですが、それより以前のモデル(Series 4以降)でもこのオペレーティングシステムにアップデートすることが可能です。つまり手持ちの古いApple Watchでも最新のワークアウト機能を(も)利用することができるというわけです。
筆者のApple WatchはSeries 7。watchOS9のリリース開始当日には早速アップグレードし、かねてから噂のあったマルチスポーツ機能を試してみました。なぜなら、この機能がApple Watchにないことがトライアスリートから見向きもされない理由だなどと、以前の記事で書いてしまっているからです。
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水泳、自転車、ランを自由に追加、削除、並び替え
正式なトライアスロンとは水泳、自転車、ランの3種目を、この順番通りに行うものですが、そのバリエーションとして2種類のみを組み合わせた競技があります。デュアスロン(ラン→自転車→ラン), アクアバイク(水泳→自転車), アクアスロン(水泳→ラン)といったものです。
ましてや、普段の練習では、種目を限定することも、あるいはレースで定められた順番とは違うやり方をあえて選ぶこともあるでしょう。watchOS9のマルチスポーツ機能はそうしたニーズに応える柔軟性を備えています。
ワークアウトから「マルチスポーツ」を選択し、編集ボタンを押すと、下のような画面が現れ、これから行う種目の種類と順番の追加・変更・削除ができます。
左側は自宅からプールまで走り、泳ぎ終わった後に、また自宅まで走って帰ってくるという練習を行ったときのものです(ラン→水泳→ラン)。
右側はトライアスロンと同じように水泳→自転車→ランを順番に行ったときのものです。
どちらも水泳はプールで行っていますが、これをオープンウォータ―に変えることもできます。同じように屋外ランニングをトレッドミルに置き換えることも可能なのです。
そして、このマルチスポーツの「開始」ボタンを押せば、すべての種目が完了するまで、ユーザーは何もする必要はありません。Apple Watchがユーザーが行っている種目を動作センサーから自動で判別し、それぞれのデータを記録してくれるのです。
下はマルチスポーツ終了後データの1例です。
左から、サマリー、ラン1,水泳、ラン2
最初に3.2マイル(5.1km)走り、プールで1,650ヤード(1,500m)泳ぎ、そして2.2マイル(3.2km)走ったときのものです。
1番左のサマリーページでは、それぞれの種目にかかった時間だけでなく、トランジッションと呼ばれる種目と種目の繋ぎ目の時間まで計測してくれています。
種目ごとの詳細ページで見ることができる情報の深度も単独で行うときとまったく同じレベルです。
すべてが自動計測なので、途中でApple Watchを操作する必要はありませんが、そうしたければ、水泳の後に防水ロックを解除する方法までもが改善されていました。以前は画面の横にあるツマミ(Digital Crown)を「回して」排水を行っていたのですが、watchOS9ではツマミを「押す」やり方に変わっています。しかもその時間もほんの数秒ほどに短縮されています。
排水という物理的な現象がなぜオペレーティングシステムのバージョンアップによって改善するのか、正直に告白しますと、私にはまったくその理屈が理解できません。しかし、現実的にはとても便利になったことは間違いありません。
いずれにしても、watchOS9によって、まるでApple Watchは別の製品に生まれ変わったような印象さえ受けました。見事なアップグレードだと称賛せざるを得ません。私が前の記事で指摘したApple Watchの弱点はすべてクリアされています。
私は本物のトライアスリートではなく、いつかはそうなりたいと願っている素人でしかありませんが、自信をもって競技の先輩たちにApple Watchをお勧めしたいと思います。
もっとも、それはすべてwatchOS9だったら、という話です。まだお済ではない人は、今すぐwatchOS9へアップデートしましょう。
Apple公式ウェブサイト:Apple Watch をアップデートする
オリンピック・ディスタンスのトライアスロンには対応
早朝6時、プールに到着
さて、オリンピックで行われるトライアスロンの距離は水泳1.5km、自転車40km、ラン10kmです。Apple Watchを着用して、この距離を実際に試してみました。とは言っても、レースに出たわけではありません。ただ自分で勝手に泳いで、自転車を漕いで、そして走ってみただけです。
まず自転車で自宅近くのプールに向かいました。これはウォームアップですので、Apple Watchで記録するワークアウトには含みません。
プールに着き、マルチスポーツの編集ボタンで「プールスイミング」、「屋外サイクリング」、「屋外ランニング」の順番で並べ、開始ボタンを押して、泳ぎ始めました。
25ヤードのプールを33往復すると1,650ヤード、換算すると1.5km です。プールから上がると、急いで濡れた体を拭き、Tシャツを着て、靴を履き、自転車に乗って海まで向かいます。
私の近所から海岸まではサイクリングロードが続いていて、しかも片道約20㎞なので、この実験には大変に都合がよいのです。
写真で見える通り、私の自転車はマウンテンバイクで、本来ならトライアスロン用ではありません。そのせいもあって大変時間がかかりましたが(言い訳です)、それでも自宅まで帰ってきたときは、Apple Watchは25.78マイル(41.5km)と表示していました。
最後のランニングは本来なら私が最も得意とするパートです。10㎞くらいは日常的に走っています。今回走ったのは自宅の周りの生活道路を一周するお馴染みのコースでもあります。しかし、水泳と自転車で合計3時間ほどを経過してからの10㎞ランはまったく別次元のきつさでした。
例えるならば、その疲れ具合はフルマラソン(42.195km)最後の10㎞に似ていなくもありません。ヘトヘトになって自宅に戻ってきたとき、Apple Watchが示すトータルの活動時間は4時間を越えていました。私のフルマラソンの持ちタイムは3時間半ほどですので、それよりも長くかかっています。オリンピック・ディスタンスのトライアスロンはフルマラソンを走るのと同じくらいか、ひょっとしたらもっときつい。そう実感しました。
ところで、ゴールした直後、Apple Watchのバッテリーはまだ37%残っていました。私より遅いトライアスリートはめったにいないでしょうから、オリンピック・ディスタンスのトライアスロンならApple WatchはSeries 7でも十分に用が足ります。これも自信をもって言い切ることができます。
それよりもっと長いアイアンマンレースになると、やはりApple Watch Ultraが必要になるようです。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani