アメリカの西海岸には有名な国立公園がたくさん集まっていますが、そのなかでもヨセミテはグランドキャニオンと並んで世界的にも人気が高い観光地です。
サンフランシスコから約4時間のドライブで着くというアクセスの良さもあって、夏のハイシーズンや週末には園内の道路が渋滞することもあれば、駐車するスペースを探して右往左往するなんてことも珍しくありません。
それでもビレッジと呼ばれるホテルやキャンプ場などの観光施設が集まったエリアから少しだけ山道を歩きだしてみるだけで、そういった都会的な喧噪から離れ、素晴らしい景観を眺めながらのハイキングを楽しむことができます。
自分だけの眺めを楽しむ
ヨセミテ「ビレッジ」内からの眺め
ヨセミテ峡谷には数多くの清流が流れ込み、巨大な岩の絶壁と滝、そして樹齢1000年以上と言われるジャイアント・セコイアの大木が織りなす自然のハーモニーが、まるで別世界に紛れ込んだように感じさせてくれる土地です。
グランドキャニオンやデスバレーのような厳しさを感じさせる大陸的な景色と比べると、ヨセミテの清らかな水と緑に包まれた自然は日本人にとっても親しみを感じやすいのではないでしょうか。
ヨセミテのビレッジは峡谷のいわば谷底のような位置にあります。園内を車で周る人たちの多くは、いくつかある見所スポットに車を停めて、たとえばヨセミテ滝やハーフドームなどを基本的には下からの角度で見上げることになります。
ところが山道を登っていくことを厭わなければ、そうした滝や絶壁を真横から見ることも、あるいは逆に上から見下ろすこともできます。そして何より、上へ向かって歩けば歩くほど、周りから他人の影が少なくなります。自分が気に入ったポイントを静かに心ゆくまで眺めることができるのです。
4時間ほどで戻るつもりだったが
トレイル近くを流れる川
今回私が寝泊まりしていたカリー・ビレッジというキャンプ場の一番近くにある登山口から歩き出したときは4時間くらいで戻るつもりでした。ネバダ滝と呼ばれるポイントまで往復4~5時間と案内板に書かれていたからです。
Apple Watchのワークアウトで「屋外ウォーキング」を選び、歩き始めました。背中に背負ったバックパックには水のペットボトルが1本と念の為に用意したレインコートを入れただけの軽装です。
トレイルは基本的には川に沿って、滝が落下を始めるポイントを目指して登っていきます。ところどころで清流に近づき、そして視界が開けるたびに出発地点の谷底が遠くなっていきます。
Apple Watchの画面には経過時間、距離、そして心拍数がリアルタイムで表示されます。これはとても便利です。どれだけ歩いたかを知ることができるだけではなく、どれだけ疲れているかも知ることができるからです。
ウォーキング中のApple Watch画面
とくに心拍数の数値は私にとって興味深いものでした。当然のことですが、険しくなった山道をよじ登るようにして歩くときは心拍数が上がりますし、休憩すれば下がります。その増減の度合いが走るときよりもむしろ大きくなることが分かりました。ハイキングと呼ぶにはいささか厳しい行程でしたので、トレッキングと呼ぶべきかもしれませんが、山道を歩くと言う動作は思っていたより激しい運動のようです。
2時間ほど歩いたところで、なんとなく目的地として決めていたネバダ滝のポイントに到着しました。それまでは穏やかに流れていた川が絶壁から轟音を上げて流れ落ちるさまをすぐ近くから見ることができます。高所恐怖症の私はたとえ柵があっても岸壁に近づくのは非常に恐ろしいのですが、中には岩にちょこんと腰かけて景色を眺めている人もいます。
「ネバダ滝」ポイント
山道はここからも続いています。と言うより、ここまで歩いてきた「ジョン・ミューア・トレイル」はヨセミテを始点として、アメリカ本土最高峰(アラスカを除く)のマウント・ホイットニーまで300キロ以上の長さで縦走しているのです。
なんとなく物足りないものを感じていた私はもう少しだけ歩き続けることにしました。もちろん食料もテントもありませんので、それほど遠くには行けません。
自分の中で5時間という時間を設定しました。出発してからそれだけの時間が経過した時点でそれまで歩いてきた道を引き返そう。
少しお腹が空くかもしれないけど、そうすれば夕方までにはキャンプ場に戻ることができる。売店にはビールもピザも売っていたぞ、という素晴らしいアイデアが頭に浮かんだのです。
バッテリーの切れ目が素人ハイカーのガイドに
歩き続けるうちに滝を上から見下ろすようになる
それでもネバダ滝のポイントを過ぎると、すれ違う人は極端に少なくなりました。
ここまでは観光ルート、ここから先は健脚者コースと呼べるかもしれません。それこそが私が望んでいたものでした。他人の目や会話を気にすることなく、ヨセミテの自然を独り占めしているような気分を味わえたからです。
ところがひとつだけ問題がありました。予期していたことではあるのですが、Apple Watchのバッテリー残量が残り少なくなっていったのです。
4時間を越えたくらいで「バッテリー残量が少ないので低電力モードに切り換えます」というメッセージが表示され、それからしばらくすると本当に画面が真っ黒になってしまいました。
歩き始めてから4時間後くらいでApple Watchに表示されたメッセージ
元々引き返そうと考えていた時間でしたので、特に大きな問題はありません。
帰りは基本的に下りとなりますので、体力的にも楽です。ちょうど良いタイミングでバッテリーが切れたのだと言えるかもしれません。
予定通りキャンプ場に戻って美味しいビールを飲みながらiPhoneでワークアウトを確認すると、バッテリー切れを起こしたであろう時間で記録が止まっていました。
GPS地図でも私の足跡は途中の山中で終わっています。
左:Apple Watch Fitness 右:Stravaにインポートした結果
念の為に書いておきますが、私が使用しているApple Watchは最新バージョンからひとつ前のSeries 7です。
そもそも長時間に渡って、しかもGPS機能を使用することを想定してはいないのです。非はアップル社にはなく、正しい使い方をしなかった私にあります。
アップル社のウェブサイトにある仕様情報(*1)では、最新版の、とくにApple Watch Ultraのバッテリー駆動時間は以前より大幅に長くなったということですので、私のような無計画なハイカーにもきっと対応してくれるでしょう。
*1. Apple Watchのバッテリー
https://www.apple.com/jp/watch/battery/
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani