Apple Watchなどのスマートウォッチやフィットネストラッカーは健康関連機能がますます充実してきています。
心拍数や睡眠パターンなどの情報を自分で把握できるだけではなく、そのデータを医療機関と共有して、健康管理や病気の予防などに活用するケースも増えてきました。
中でも女性の健康に重要な月経周期を把握するための機能は、Apple Watchを含めたいくつかのウェアラブル製品に以前から搭載されていました。
例)アップル社のサポートページ:https://support.apple.com/ja-jp/HT210407
そこからさらに一歩進んで、ウェアラブル製品からのデータを医療機関と連携することによって妊娠の初期発見を可能にする研究が進行中でしたが、思わぬ理由により頓挫してしまっています。
Oura Ringからのデータで妊娠検査薬より早く妊娠を検知
今年の5月、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校のデータ・アナリスト、ベン・スマ―氏がある論文(*1)を発表しました。
指輪型フィットネストラッカーのOura Ringはほとんどの妊娠検査薬より早く妊娠を検知できるというものです。
女性の体温の変化によって、妊娠の可能性を判定できるのだそうで、スマ―氏は結論で「体温による妊娠検知方法の研究を進めることによって、妊娠の自覚が遅くなることを防ぎ、妊婦への支援を高めることができる」と述べています。
Oura社はスマ―氏らカリフォルニア州立大学の研究に全面協力し、妊婦の健康を守り、流産の可能性を検知する仕組みを開発する共同プロジェクト(*2)を立ち上げました。
女性を支援するはずのシステムに立ち塞がった政治的決断
ところが、スマ―氏と研究チームが開発を停止、あるいは方向転換せざるを得ない事態が起こりました。6月に米連邦最高裁判所が女性の人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド(Roe v. Wade)判決」を覆す判断を下したのです。これを受け、既に一部の州では中絶が非合法化されていますし、その数は増えるかもしれません。
つまり、ある女性が妊娠しているという事実が外部に漏れると、その女性にとって法的な問題で不利に働く可能性があるのです。ウェアラブル製品のデータを医療機関と共有することを躊躇う女性も当然出てくるでしょう。
「女性を助ける代わりに傷つけるようなシステムを私たちは開発しているのでしょうか。それを考えると恐ろしくなります」とスマ―氏は言ったそうです。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani
*1. Feasibility of continuous distal body temperature for passive, early pregnancy detection.
https://journals.plos.org/digitalhealth/article?id=10.1371/journal.pdig.0000034#
*2. UCSD Launches Study Using Oura To Explore Pregnancy.
https://ouraring.com/blog/ucsd-pregnancy-study/
photo source:Amazon