スマートフォンのケースやスマートウォッチでよく見る「アメリカ国防総省が制定したMIL規格準拠」「ミルスペック」「MIL-STD-810G適合」といった売り文句。
「何だかよく分からないけど、軍隊(ミリタリー)で使えるくらいの頑丈なスペックなんだろうなぁ」と思っている人が多いでしょう。
しかし、詳しい実情を知っている人はそう多くないはずなので、本記事ではその詳細をご紹介します。
MIL規格=タフネスの代名詞のワケ
MIL規格 (ミルきかく) というのは、一般的にアメリカ軍が必要とする各種物資の調達に使われる規格の総称です。
その対象は、複雑な武器システムから、コーヒーメーカーや衣服まで、あらゆる物品に及んでいます。
ただし、私達がスマートフォンのケースやスマートウォッチ、その他の家電製品で見る「MIL規格」というのは、耐環境性試験の規格である「MIL-STD-810」に準拠した試験実績を指しています。
軍隊で使用する物資の規格である「MIL-STD-810」では、防水・防塵、高温・低温、重力・加速度等に一定基準耐えることが必要とされるため、MIL規格=タフネスの代名詞のような扱いになっているわけです。
MIL-STD-810の試験項目は?
MIL-STD-810には、雨、振動、ほこり、湿度、極端な温度、衝撃、塩霧などの広範な環境条件をカバーする試験方法があり、主なテスト方法は次のとおりです。
試験方法500.6-低圧(高さ)
試験方法501.6-高温
試験方法502.6-低温
試験方法503.6-温度衝撃
試験方法504.2-液体汚染
試験方法505.6-日射量(太陽光)
試験方法506.6-雨
試験方法507.6-湿度
試験方法508.7-キノコ
試験方法509.6-塩霧
試験方法510.6-砂とほこり
試験方法511.6-爆発性雰囲気
試験方法512.6-液浸
試験方法513.7-加速
試験方法514.7-振動
試験方法515.7-音響ノイズ
試験方法516.7-衝撃
試験方法517.2-パイロショック(爆発における動的構造衝撃)
試験方法518.2-酸性雰囲気
試験方法519.7-ガンファイアショック
試験方法520.4-温度、湿度、振動、高度
試験方法521.4-氷結および凍結する雨
試験方法522.2-弾道衝撃
試験方法523.4-振動音響と温度
試験方法524.1-凍結と解凍
試験方法525.1-時間波形の複製
試験方法526.1-レール効果
試験方法527.1-複数刺激
試験方法528.1-船舶設備の機械的振動
上記のように規格が広範囲にわたる性質上、製品に対してMIL-STD-810の全項目を網羅した試験が行われることはまずありません。
スマホケースやスマートウォッチで主に行われているのは「衝撃(落下)」「高温・低温」「振動」「耐水」「耐塵(砂、ほこり)」などの試験でしょう。
なので「MIL規格 準拠」と書かれているときも、「どの項目をクリアしているのか」「何項目クリアしているのか」をチェックしたほうがいいでしょう。
また、試験の結果によって公的な品質保証が得られるわけでもないため、消費者は注意が必要です!
MIL規格に準拠しているからといって、アメリカ国防総省が直接試験をして認定を与えているわけでもなく、試験は製品を製造・販売する企業が外部に委託して行っていることが通例なためです。
実際の製品ではどんな試験が行われている?
下記リンク先の「dynabook Vシリーズ」のMIL規格(MIL-STD-810-G)試験内容を見ると、以下のような試験が行われていることが分かります。
これだけの試験が行われていれば、たしかに耐久性は信頼できますね。
「落下」:各面、辺、角の26方向から76cm落下
「粉塵」:6時間にわたって細かい粉塵を吹き付け
「高度」:高度4,572m相当の気圧まで減圧
「高温」:30~60℃の環境下で24時間×7サイクル
「低温」:-20℃の環境下でテスト
「温度変化」:-20~60℃の温度変化を6時間
「振動」:前後・左右・上下の各軸1時間の振動テスト
「衝撃」:6方向×3回、計18回の衝撃を与える
「太陽光反射」:24時間×3サイクル照射テスト(太陽光を模した光)
Vシリーズ – モビリティ|2021年秋冬 | dynabook(ダイナブック公式)
https://dynabook.com/2in1-mobile-notebook-tablet/v-series/2021-fall-winter-model-5in1-convertible/mobility.html#sect-02-06
「MIL-STD-810」の数字やアルファベットの意味は?
なお「MIL-STD-810」の後に「MIL-STD-810G」のようにアルファベットが付くこともありますが、アルファベットはリビジョンの数。つまり「G」の場合はAから数えて7番目なので第7版を表します。
なお最初のMIL-STD-810がリリースされたのは1961年。「MIL-STD-810G」は2008年のリリースで、その後2018年に「MIL-STD-810H」もリリースされています。
ちなみに「STD」は「標準」を意味します(STANDARD)。810は規格番号で、ほかにも下記のような基準があります。
・MIL-STD-105:サンプルと試験手順
・MIL-STD-188:電気通信
・MIL-STD-202:電子部品の基準
・MIL-STD-498:ソフトウェア開発とドキュメンテーション
・MIL-STD 461:電磁波放出の規制に関して
・MIL-STD-806:(現存せず) いわゆる「MIL論理記号」
・MIL-STD-810:器材に対する環境耐性を決定するための試験方法
・MIL-STD-882:システム安全性のための標準作業
・MIL-STD-883:集積回路のための試験方法基準
・MIL-STD-1234:火薬類のサンプリングと試験方法
・MIL-STD-1246C:スペースハードウェア
・MIL-STD-1474:小銃の音響測定の標準化
・MIL-STD-1553:デジタル通信
・MIL-STD-1589:JOVIAL(プログラミング言語)
・MIL-STD-1750A:航空コンピュータの命令セット(ISA)
・MIL-STD-1760:ハイテク兵器インターフェース
・MIL-STD-1815:Ada(プログラミング言語)
・MIL-STD-1913:ピカティニー・レールに関して
・MIL-STD-2196:光ファイバー通信に関して
一言にMIL規格といっても、実はいろんな種類があるわけですね。
なお「MIL-STD-810」の正式名称は「Environmental Engineering Considerations and Laboratory Tests」で、ググるとPDFファイルが出てきますが、なんと800ページ以上のボリュームがあるので(もちろん英語)、普通の日本人は読んでも理解できないでしょう……。
自分の持っているガジェットでMIL規格を謳っているものがあったら、どの規格のどんな項目をクリアしているのかチェックしてみるといいでしょう。
●執筆者:スマートウォッチライフ編集部
日本初のスマートウォッチのウェブメディア。スマートウォッチ・Apple Watchの選び方や入門者向けの記事を多く配信しています。編集部には50本以上のスマートウォッチがあり、編集部員は常にスマートウォッチを片腕or両腕に着用。日本唯一のスマートウォッチ専門ムック本『SmartWatchLife特別編集 最新スマートウォッチ完全ガイド』(コスミック出版)を出版したほか、編集長はスマートウォッチ専門家としてテレビ朝日「グッド!モーニング」にも出演。
あわせて読みたい
Amazfit T-Rex 2使用レビュー。15項目でアメリカMIL準拠のアウトドア向け高級スマートウォッチ
iPhoneケースの人気ブランド最新モデル8選。オシャレでMIL規格準拠のモデルも! iPhone13対応モデルを中心に紹介
※本記事のリンクから商品を購入すると、売上の一部が販売プラットフォームより当サイトに還元されることがあります。掲載されている情報は執筆時点の情報になります。