スポーツ大国アメリカにおいて最大の人気を誇るのはアメフトのプロリーグであるNFLです。NFL(アメフト)、 NBA(バスケットボール)、 MLB(野球)、 NHL(アイスホッケー)が北米4大人気プロスポーツとよく称されますが、NFLはその中で1番と言うよりは、他の3つを合わせたものよりはるかに大きいと言った方が実情に近いかもしれません。
分かりやすく比較するなら、MLBワールドシリーズやNBAファイナルのテレビ視聴率は良くても10%程度であるのに対し、NFLスーパーボウルのそれは軽く40%を越えます。
まさしくアメリカの国民的スポーツであるNFLは今まさにプレーオフ期間の真最中なのですが、そのさなかにフィットネス・トラッカーの『WHOOP』が行った過去に例のない試みが注目を集めました。
現在のNFLで最高のクォーターバック(QB)との呼び名も高いパトリック・マホームズ(カンザスシティ・チーフス)が試合中にWHOOPを着用し、その心拍数変動データを公式サイトで公開したのです(*1)。
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歴史的な大場面で見せた若いスーパースターの超人的な落ち着き
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マホームズの心拍数データが公開されたのは2022年1月23日(日本時間24日)のカンザスシティ・チーフス対バッファロー・ビルズ戦です。
この試合はプレーオフ・トーナメントの準々決勝にあたるディビジョナル・ラウンドの1つとして行われ、きっとNFLの歴史に残るだろうと思われるほどのスリリングな展開を見せました。
試合終了直前の2分間に両チームが25点を取り合い、36-36の同点となった延長戦でチーフスがサドンデスのタッチダウンを奪い、カンファレンス・チャンピオンシップ進出を決める劇的な勝利を挙げました。
アメフトに興味がない人には何が何やら分からないかもしれませんが、要するに全米中の人が固唾をのんで見つめる大試合で、試合終盤に追いつ追われつとなった大激戦が展開されたのだとご理解ください。
上記WHOOPのレポートで人々を驚かせたことは、マホームズはもっとも緊張するだろう場面での心拍数がかえって他の時間より低くなっていたことでした。さすがに試合終盤の数分間はずっと150~169 bpmの間で上昇を続け、勝利が決まった瞬間に最高潮に達しました。
Calm under pressure. Pumped up in peak moments.
See more of @patrickmahomes’ WHOOP data from Sunday’s historic game: https://t.co/b9eYIADYTa #WinningonWHOOP pic.twitter.com/rYtevb3NIL
— WHOOP (@whoop) January 26, 2022
試合中を通した平均心拍数は146 bpm、最高は第1クォーターにタッチダウンを挙げた191 bpm、最低は79 bpmにまで下がりました。一般人の安静時心拍数は60~100 bpmと言われていますので、マホームズの最低心拍数はその範囲に収まります。全米が熱狂する試合中のさなかに平常心を保っていたことがよく分かります。
まだ26歳のマホームズは年齢に似合わない冷静沈着さで知られていますが、それでもこのデータには驚くしかありません。「マホームズの血管には氷が入っている」と書いた記事(*2)もありました。
スポーツ界で存在感を高めるWHOOP
WHOOPはマホームズ以外にも、バスケットボールのレブロン・ジェームズや水泳のマイケル・フェルプスといった超大物アスリートたちと契約を結んでいます。さらにメジャーリーグ、ゴルフのPGA ツアー、クロスフィット、など、様々なスポーツ団体とも契約を結び、今回のようなスポーツファンにとっては非常に興味深いレポートを次々と発表しています。1例を挙げるなら、ジャスティン・トーマスとローリー・マキロイが昨年のライダーカップ(ゴルフのアメリカ対ヨーロッパ対抗戦)に出場する直前の睡眠データ(*3)を公開したこともあります。
アスリート向けのフィットネス・トラッカーとして確固たる地位を高めつつあるWHOOP社ですが、実は2012年に当時まだハーバード大に在学中だったウィル・アーメド氏によって設立されたスタートアップ企業に過ぎません。
エジプト移民を父に持ち、2020年にはフォーブス社の「40歳未満の起業家40人」に選ばれたこともあるアーメド氏は、自身も大学時代はスカッシュの選手でした。WHOOP社の知名度が上がるにつれ、アーメド氏のアメリカン・ドリームも様々なメディアで取り上げられることが増えてきました。
そのアーメド氏が最近、全米3大テレビネットワークの1つである『NBC』のインタビュー(*4)に応じました。
その中でアーメド氏は新型コロナウイルスに感染したことを公開し、自身の心拍変動を解析するとともに、WHOOPのデータが感染を検知することに役立つと述べました。
その信憑性はともかくとして、この若い美男子で爽やかな印象を与えるCEOがメディアに紹介されたことで、WHOOPの名がさらに高まったことは間違いないでしょう。
*1. Patrick Mahomes’ Heart Rate and Strain Data from Historic Playoff Win.
https://www.whoop.com/thelocker/patrick-mahomes-heart-rate-in-game/
*2.Last Sunday Prove He Has Ice in His Veins.
https://www.insidehook.com/daily_brief/health-and-fitness/patrick-mahomes-whoop-stats
*3. Insights from Justin Thomas & Rory McIlroy’s WHOOP Data Prior to Ryder Cup
https://www.whoop.com/thelocker/justin-thomas-rory-mcilroy-sleep-data-ryder-cup/
source:Patrick Mahomes’ Heart Rate in Historic Playoff Win | WHOOP
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani
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