今回の記事では、米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)で、3時間26分というフルマラソンのベストタイムを持つ市民ランナーでもある角谷剛氏が、カリフォルニアのビーチを走る「Surf City Marathon」参加レポートを紹介。
参加ランナーはランニング向けの機能を搭載したスマートウォッチを着用していた人が多いようで、レース中はラップタイムを知らせる電子音や合成音声が何度も聞こえたそうです。
角谷氏はGarminのランナー向けスマートウォッチを着用して自己ベストタイム更新を狙いますが、果たして結果はどうなるでしょうか?
9・11テロ事件の20周年記念日にサーフィンのメッカで再開したフルマラソンレース
9月11日に米国カリフォルニア州ハンティントンビーチで行われたフルマラソン大会に参加しました。
例年なら2月に行われるレースですが、今年はコロナ禍のために延期となり、9月の開催になりました。ニューヨーク・ワールドトレード・センターのテロ事件からちょうど20周年となる節目の日でもありました。
レース公式サイト: https://www.runsurfcity.com/
ハンティントンビーチはサーフィンのメッカとして知られています。東京オリンピックで銀メダルを獲得した五十嵐カノア選手もここハンティントンビーチを本拠地にしています。
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— Kanoa Igarashi (@KanoaIgarashi) May 24, 2019
サーフィン全米大会が毎年ハンティントンビーチで行われていますが、これも2020年はコロナ禍のために中止となりました。
2年ぶりとなる今年の大会は9月20-26日に行われ、2017年と2018年にこの大会で連覇を達成した五十嵐選手も3度目の優勝を目指して出場する予定です。
景色に目もくれずに走ったわけ
さて、そのハンティントンビーチで15回目の開催となる、その名もサーフシティー・マラソンのコースは大部分がビーチに沿っていて、ランナーはずっと海を眺めながら走ります。
ゆっくりと楽しみながら走るファンランにはうってつけのレースなのですが、私は今回に限ってはその景色には目もくれることがなく、かなり真剣にタイムを狙って走りました。
前回の『Transrockies Run』(下記の関連記事参照)では完走することだけが目標でした。
それでも約200キロとの距離を6日間で走破したことは間違いなく、これを練習として捉えるなら、かなりの「走り込み」をしたことになります。標高3000メートル以上の高地トレーニングをこなしたとも言えるでしょう。
だったら、長距離ランナーとしての地力はかなりついたはずだから、今ならフルマラソンの自己ベストタイムだって更新できるに違いない。そう考えたのです。
上の理屈にはどこにも無理がないような気がするのですが、それがいかに愚かな考えであったかは後で分かりました。
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目標タイムから平均ペースを逆算する
今回私が身につけたのはウェアと帽子以外はGarmin Forerunnerのみ。
その名の通り、ランナーたちに人気のあるスポーツ系スマートウォッチです。
上の画面に表示されているのは、スタートしてから距離と時間、そして現在のペースです。ペースは1マイル(1600メートル)にかかる時間が計算されています。
1マイルごとに直近のスプリットタイムも教えてくれます。これらはレース本番中のランナーにとって極めて重要なリアルタイム情報です。
目標タイムに挑むランナーがレース前にまずやることは、その目標タイムを基に平均ペースを逆算することです。米国のレースでは距離をマイルで表示されますので、私のGarminも単位をマイルで設定しています。フルマラソンは26.2マイル(42.195キロ)です。
私の場合は3時間25分を目標としましたので、合計時間は205分。それを26.2で割ると、1マイルを7分49秒で走ることが目標達成のための平均ペースという計算になりました。
もちろん、最初から最後までずっと同じペースでフルマラソンを走ることは不可能です。最初は行ける所までハイペースで飛ばして、後は根性で乗り切る。
そんな作戦も考えられなくはありませんが、ほとんどのマラソン指導書では、前半をゆっくり走って体力を温存し、後半にペースアップする方法を勧めています。
後半ハーフを前半ハーフのタイムより速く走ることを「ネガティブ・スプリット」と呼び、それが現在ではレース戦略の主流となっています。
私もネガティブ・スプリットを基本的な作戦として、前半のペースを8分00秒~8分15秒くらいに抑え、ハーフくらいから8分ちょうどかやや速いペースに上げ、30キロを過ぎてからは7分49秒を切るペースで走ろうと考えていました。
鳴り響くラップタイムの電子音。誰もがデータに頼って走るが……
この作戦自体は悪くないと思いますし、最初のうちは上手くいっていました。
前半15キロくらいまでは想定していたペース通り。その後はややペースを落としたものの、ハーフの通過タイムは目標から数分遅れの1時間45分。
そのまま行けば、目標タイムには届かないにしても、3時間30分という、私にとっては上出来のタイムでゴールできるはずでした。
私と似たようなことを考えていたランナーは他にも多くいたようです。誰もがしょっちゅう腕時計を覗き込みながら走っていましたし、1マイルごとに腕時計が「ビー」となる電子音があちこちで聞こえてきました。
「今は○○マイル。時間は何分何秒です。直近ペースはマイル何分何秒です」という類の合成音声も混じっていました。
ところが、私の作戦は絵に描いた餅でした。
30キロを過ぎたあたりから足が痛み始め、痙攣が始まりそうな気配までしてきました。そうなるとペースを守るどころか、走っては歩くの繰り返しになってしまいます。
もはやGarminを見る気にすらなりません。そうしているうちにも時間は無情に流れ、目標としていた自己ベストタイム更新は今回も夢と終わったのでした。
そもそもフルマラソンと言う長丁場には、机上の計算には含むことができない要因がたくさんあるのです。
登り坂もあれば下り坂もあります。向かい風に苦しむこともあれば、逆に追い風に助けられることもあります。距離は同じ1マイルでも、1つとして同じシチュエーションはありません。同じスピードで足を動かしているつもりでも、結果としてのタイムは1マイルごとに数10秒単位で変わってもおかしくないのです。
いっそのことスマートウォッチを外したほうが上手くいく?
今回のレースでは、気温の上昇がネックでした。
朝6時半のスタート時では摂氏15度くらいで快適だったのですが、太陽が上がると気温も上がります。これもまた当然なのですが、遅いランナーほど後半は暑さに苦しむことになります。この日の最高気温は30度近くにまでなりました。
身体がどんどん疲労してきているのに、走る条件は悪くなる。それでも設定したペースを守ろうと無理をするとどうなるか?
脚の筋肉がパンクするのです。ハムストリングスやふくらはぎが攣って、道路脇にしゃがみこんでしまうランナーや、足を一歩一歩引きずるように歩くランナーをレース後半によく見かけますが、大抵はそんな人たちです。そしてほぼ例外なく、レース後はひどい筋肉痛に苦しむことになります。
そんなことは十分すぎるほど分かっているはずなのに、いざ走り出すと設定ペースが守れているか気になって仕方がない。いっそのこと腕時計を外した方が上手く行くかもなあと思わなくもありません。
考えてみると、私が自己ベストタイムを出したときのレースは、スマホもスマートウォッチも持たずに感覚だけで走っていたのでした。
それでもまあ、こんなにきれいな海が見えたのだからいいじゃないか。
後半はペースを落としたのではなく、景色を楽しみながらリカバリーランをしていたのだ。そう考えることにします。負け惜しみにあらず。
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani
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