2年ぶりに開催された全米屈指の人気を誇る山岳レース
8月2日~7日に開催されたTransrockies Run 2021に参加してきました。
コロラド・ロッキー山脈を6日間かけ、テントに寝泊まりしながら、合計で約200キロを走るレースです。
大会公式サイト:https://www.transrockies-run.com/
1日に走る距離は平均して約32キロ。それだけでも大変なのですが、走るのはすべて山の中。
あるときにはトレイルランというより、むしろ登山に近くなります。
なにしろ、このレースは行程の大部分が標高3,000メートル以上の高地で行われ、そのなかには富士山より高い山に登る日もあるのです。
コロナ禍での開催で日本人ランナーは筆者1人に
今年で14回目になるこのレースですが、昨年は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。
2年ぶりの開催となった今年の参加者は約300人。
例年は海外からの参加者も多く、過去には日本からの参加者もいたそうなのですが、今年は参加者の大半が米国国内から集まったランナーたちでした。
日本を含めて渡航制限が厳しい国もまだ多い状況でしたので、仕方がないことではあるのですが。そのようなわけで、私は今レース唯一の日本人ランナーでした。
レースはツールドフランスのように毎日走るコースを指定され、ステージごとに順位がつきます。
8時~14時まで走る・歩く→夕食を食べてテント眠るを6日間繰り返す
そして6日間の累計で総合順位が決定する仕組みです。とは言っても、順位やタイムを気にするのは一握りのエリートランナーたちだけで、参加したランナーの殆どはそうではありません。それよりも何よりも、自分の足だけを頼りに制限時間内にゴールラインに辿り着くことだけが大切でした。
毎朝8時にスタートし、正午から午後2時くらいまでにゴール。
あとはテント村でゴロゴロして、夕食を食べたら、外がまだ明るいうちにテントでバタンキュー。そんな1日が6回続きました。
300人以上のランナーを収容するテント村
6日間Fitbitを手首から離さなかったわけ
私はこのレース期間中ずっとFitbit Charge 3を装着していました。
一般的には長距離ランナーにはGarminを好む人がずっと多く、実は私も1つ持っています。
普段はその日のアクティビティの目的によってFitbitとGarminを使い分けているのですが、今回はFitbitを選びました。
前述しました通り、非常に険しい山道を走るか歩くわけですので、今回のレースに限ってはランのペースを管理する機能はあまり私のようなレベルの市民ランナーの役には立ちません。
それよりむしろ、私の興味は6日間を通して自分の体調がどのように変化するのか、という点にありました。
心拍数がどれだけ高地の影響を受けて、消費カロリー数、歩数、移動距離はどれだけ積み上がるのか、睡眠の質と時間は確保できるのか、といったことです。
Fitbitはスポーツに特化しているスマートウォッチではありませんが、そうした健康指標データを把握するには向いている、と私は考えています。
ある朝のスタート前。手首にFitbitを装着済み
私は腕時計以外にもスマホを携帯しました。
緊急連絡に備えるためでもありましたが、主な目的は写真を撮ることです。
他にも大会ルールでレインジャケット、帽子、手袋、防寒シートは必ず携行しなくてはいけませんでした。
どんなにスタートで晴れていても、山間部の天気は急変することがあるからです。
従って、ランナーは皆バックパックを背負って走ることになります。そしてもちろん、殆どのランナーの手首にはスマートウォッチやランニングウォッチが巻かれているのでした。
大会には充電ステーションも完備!
6日間ずっとスマートウォッチやスマホを持って走るとなると、充電をどうするかという問題が出てきます。
さすがに大会主催者はその点をよく承知していて、テント村の一角には何十個ものコンセントが並べられた充電ステーションが用意されていました。ランナーたちはスポンサーが提供してくれたビールを飲みなから、充電が終わるまで談笑しながら待っていればよいのです。
こうして記録したスマートウォッチのデータが実際のレース現場でどのように役に立ったのか、以下に紹介していきます。
テント村の充電ステーション
Fitbitのデータを交えた詳細レポート
高地の薄い空気に苦しめられた1日目
まず初日のコース距離は約32キロ。累計標高差は750メートル。出発地点の標高は約2,400メートルで、最高到達点は約2,900メートル。
これでも6日間の中ではもっとも穏やかな設定になっていました。
翌日はスタートからゴールまでずっと標高3,000メートル以上、最高到達点は富士山(3,776メートル)より高い約3,800メートルというコースが待っていました。
私にとって今回のレースで最大の難関は距離ではなく標高でした。
何しろ、マラソンランナーたちが行う高地トレーニングに向いている標高でも2,100~2,500メートル地点だと言われているのです。
高橋尚子さんや有森裕子さんらが住んで有名になったコロラド州ボルダーの標高は約1,600メートル。市民ランナーがそれよりはるかに高い場所を走ることの意味が想像できるかと思います。
標高約3,600メートル地点にて
私は以前に少しだけ高地トレーニングの経験がありました。
高校生長距離ランナーの夏合宿に帯同し、標高2,400メートル地点(富士山6合目ぐらいの高さ)にベースキャンプを構え、毎朝12~20キロのラン、午後は山歩きという7日間を送ったことがあるのです。
なぜそんなことをしたのかと書き出すと長くなりますので割愛しますが、とにかく高地の薄い空気で走ることの大変さは未経験ではありませんでした。
平地ではスロージョグのペースなのに心拍数は最大値に
高地では酸素が薄いので呼吸が苦しくなります。ちょっと走るとすぐに息が上がります。
どれくらい苦しいかというのは個人差が大きいのですが、概ね平地の倍以上は疲れると思って間違いはないと思います。
そのときの経験からペースを意識的に落としました。
30キロを4時間というのは私にとってはスロージョグのようなペースです。それにもかかわらず、初日を走り終えた後のFitbitのデータを見ると、私の心拍数は最大値に近い数値まで上がっていたことが分かりました。
初日を走り終えた後のデータ。ほとんどの時間で心拍数がピークゾーンに達していた。
Fitbitではユーザーの年齢から最大心拍数を算出し、それに応じて心拍数をピークゾーン、有酸素ゾーン、脂肪燃焼ゾーンに分けていますが、私はこの日4時間強のうち3時間半ほどをピークゾーンで走っていたのです。
簡易的な算式である(220-年齢)を用いると、私の最大心拍数は166bpmのはずなのですが、それをはるかに越える数値も出ていました。
主観的にも大変疲れました。初日からこんなことでは、とてもあと5日も身体が持つ訳がありません。
明日からは意識してもっとゆっくり走ろう、どんなに緩くても登り坂は歩いたっていいじゃないか、と強く気合(?)を入れたのでした。
6日間の歩数は31万歩、2万6285キロカロリーを消費!
上の図もFitbitに表示された6日間の記録
レースだけではなく、テント村を歩き回った分までも含めると、6日間で私は合計26,285キロカロリーを消費したことになっています。
歩数の合計は31万歩を越えました。健康に良いとされる1日1万歩の5倍以上の数字です。
何しろ、レースで1日30キロ以上を走るだけではなく、夜中にテントを抜け出してトイレに行くにしても、ヘッドランプをつけて数百メートル歩くのが普通でしたので、自然と運動量や移動距離は尋常ではない量になります。
計算上では2kgは痩せてるはずだったが……
ところで、この間、さぞお腹が空いたはずだと思うのですが、実は食べる量はそれほど普段と変わらないか、あるいは少なくなりました。
朝食と夕食をテント村で出してくれたのですが、朝は走る前ですので大食いをする気にはなれず、昼はコース途中のエイドステーションでバナナやスイカなどをつまむだけ、夜も紙皿に乗る分くらいしか食欲がわかなかったのです。
普段と同じだけ食べていたとして、1日約2,000カロリー。6日合計で約14,000カロリーほど消費カロリーが摂取カロリーを上回った計算になります。
脂肪1キロで約7,200カロリーだと言われていますので、私はこの6日間で2キロほどの脂肪を燃やしたことになるはずです。
それではさぞ痩せたのではないかと興味を持たれる人も多いかと思いますが、実はよく分かりません。ゴール直後の写真を見ると、何となく普段より細くなっているような気がしないでもないのですが、何しろ体重計というものがそこにはありません。
6日間のレースを終了した後は、もちろん、腹一杯食べて、ビールをたくさん飲みました。コロラド州から自宅があるカリフォルニア州までのロングドライブを経て3日後に帰宅したときは、体重は普段と同じレベルに戻っていたのでした。
ゴール直後の筆者。生涯最高のビールを味わう
●執筆者プロフィール 角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー走部監督を務める。年に数回、フルマラソンやウルトラマラソンを走る市民ランナーでもある。フルマラソンのベストタイムは3時間26分。公式Facebookは https://www.facebook.com/WriterKakutani
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